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1995/04/17
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ねぎす/みど太/きみど太/まぜん太
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お兄ちゃんうわあああああんゴロンゴロンびたんびたんプシヤアアアうわあああああんひぎいいいい

つまり生まれてきてくれて有難うということででしてね。伝えきれないこの想い。

ドラムさん宅昴さん

おかりしました!


 


 花山慈眼は悩みに悩んだ末に購入したプレゼントを、それを購入した自分と、それを喜ぶ相手の顔と、それを渡すときの心境を、思い浮かべながら睨み付けている。切れ長の涼やかな目で見ている。当の本人は全く涼やかなどではなく、冷たい風が吹こうとも体も頭も涼しくなることなどなかった。何かしらの前日というのは、その何かしらに絶対の自信があったとしても、不安になり浮き足立つものである。慈眼の場合、絶対の自信も無い。

 シャネルの19番の香水、ディオールの145番の口紅。どちらも女性にプレゼントする物だが、同級生の男にやるのだ。しかもただの男ではない、恋人である。似合うと思って買ったのだし、相手がこのプレゼントが好みでなくても自分を嫌わないことなど、慈眼は分かっているのだ。だから好きになったのだけれど、好きだからこそ悩むのだ。永遠の悩み。個人によって好き嫌いの分かれる物をプレゼントするとなると余計に気になって仕方がない。買いに行くのには勇気は要らなかった。相手のために、と思えば、足が勝手に動いていた。口紅に至っては通販で買った限定品であった。自室で、丁寧にラッピングされたシックなプレゼントを、穴が空くほど見つめた。正座で、少しも体を揺らさず、一点を。考えが考えを呼び、日付が変わりそうになったときに、その考えが止まった。


「メール・・・!」


 下らないけれども、誕生日おめでとう、とメールで送るのは、自分が一番でいたい。予めつくっておいたメールを、時間ぴったりに送った。送信ボタンを押した瞬間、糸が切れたように、ドッと汗が出て、ベッドに倒れ込み、眠った。祝っているのだ、お前の誕生をめでたく思っているのだ、天上天下唯我独尊と産声を上げたのなら本尊にしてやりたいと思っている程だ、そういう混沌とした喜びの気持ちが、脳を疲れ果てさせた末に眠らせたのだった。


▲▼▲▼▲▼


「昴、」
「おう。」


 ポーカーフェイスを気取ったびちょ濡れの雑巾のようだった。つまり無表情で冷や汗が気持ち悪いぐらい出ていた。しかし手汗だけは意地でもかくものかと、手はカラカラであった。昴、と呼ばれた慈眼の想い人は、正しくポーカーフェイスであった。


「は、ははハッピーバースデイ、これプレゼントだヨ。」
「・・・棒読みだな。汗拭け、それより。」


 腹話術師がいてくれたならば、と思ったと慈眼は語る。


「おお、高いのによく買ったなお前。」
「いや・・・つーか、嫌いなのだったら、全然、アレだから、言ってくれたら良いからな。」


 最早学校の誰にも隠す気の無いゲイカップルであるから、教室で、然も女子が義理チョコを男子に渡すかのように、プレゼントを渡した。其れまでは、まぁ普段から突然のキスやボディタッチで心臓の高鳴りは人一倍多い(慣れることなど無く、慈眼は面白い程よく驚く)ため、いつものように心臓が五月蝿く鳴りやがった。

 しかし、プレゼントを見て、感心している相手を見て、自分は、何かを間違った気がした。商品自体に問題など無いし、ラッピングだって趣味が悪ければ相手はハッキリと言い捨てる性格だし、手に取った瞬間に少しでも笑みがこぼれたのだから、嫌ではなかったのだが、慈眼の心に、奇妙な恥じらいが芽生え、終いにはプレゼントを返してほしくなった。詰まるところの逆ギレのようなものだが、感情が昂りすぎて涙が出そうになったのだ。幼稚園児などによくあるアレだ。昴は、慈眼の腰に手を置き、妖艶な笑みながら俯く慈眼の顔を覗き込んだ。


「シャネルの19番でお前をたぶらかせて、ディオールの145番の塗った唇でキスしてやるよ。」
「・・・!」


 胸元からちらりと見える、この前つけたキスマークが見えて、まるで娼婦にたぶらかされている様に思えた。くらくらする。箱から香る19番の香りが脳味噌まで回って、近くの相手の香りも合わさって、悩める男子高校生は、盛りのついた犬に成り下がった。


「お前が、コレを選んでくれたってのは、俺の唇思い出したり、俺からこの香りがしたら興奮するって思ったんだろ?」
「あー・・・まぁさぁ・・・そりゃさ・・・」
「嬉しくねぇわけ、ねぇだろ。馬ぁ鹿。」


 いやらしい笑みなどではなかった。年相応の、恋人を可愛がる笑みだから、これがまたギャップというやつで、慈眼の心臓が脈打つ。

 昴の垂れている前髪の上から、瞼辺りにキスをした。頬は赤く、手汗だって滝の如く。


「お前の匂いだって、お前の唇だって、全部俺の、もの。」
「顔真っ赤にして何言ってんだ、煩悩坊主。」


 坊主はただ、相手の全てを奪い去りたく、娼婦の手を引き、どこまでも駆けた。




おわり
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